BeStoke Directer Nariのニュージーランド・リアルライフ 第2弾

BeStoke Directer Nariのニュージーランド・リアルライフ 第2弾

オークランドで最初に決まった仕事は、そのまま正社員として登録され、毎日忙しく働く日々が続きました。僕が勤めていたのは、これから大きく展開していこうとする若い会社。社長も若く、勢いがあって、オークランド中の鈑金塗装屋を次々と買収し、気づけば7社ほどを抱える巨大グループを作ろうとしていました。



でも、その頃から小さな問題が起こり始めます。


おそらく事業拡大のプレッシャーで、社長は常にイライラしていました。もともと借りていた工場が大きすぎて家賃が高く、道路を挟んだ向かいの場所に移転しようとしていた時期でもあり、そのストレスも積み重なっていたのでしょう。社内の雰囲気も徐々に悪くなっていきました。


一番仲の良かったペイントショップのマネージャー、マイクも、そんな社長の怒りっぽさに嫌気がさし、何度も大喧嘩しては仕事途中で帰ることもしばしば。


ニュージーランドでは雇用者がかなり守られていて、当時は年間5日間のシックリーブ(有給病欠)が与えられ、今では年間10日間に増えています。ケンカして気持ちが落ち込んで帰ったとしても、「心がしんどい」という理由で病欠扱いになり、給料も出るほど。とにかく社員に優しい国なんです。

 

そんなマイクもついに我慢の限界を迎え、会社を辞めることになりました。

退社するときに僕へ「次の会社にお前の事紹介してやるよ」と言い残して去っていき、2週間後、本当に彼から連絡が来ました。


うちの会社に面接に来いよ。」


彼が移った先は“Coach Builders(コーチビルダーズ)”。大きなキャンピングカー、大型トラック、大型バスの製造からペイントまで全部行う会社です。町の中心から郊外へ移った場所で、僕にとっても渋滞が少なくて通いやすいエリア。何でも経験してみたいと思い一度話してみる事に。


面接へ行くと話はトントン拍子に進み、当時ワーキングホリデービザだった僕に「ワークビザサポートもできるよ」とその場で言ってもらえました。

ワークビザ(就労ビザ)を取れれば、もっと長くこの国に滞在でき、永住ビザに繋がる可能性大

こうして僕は新しい職場へ移る決断をし、ニュージーランドでの初転職が始まったのです。


『コーチビルダーズでの新しい経験と、人生を変える衝撃の事件』


コーチビルダーズは約30人が働く大きな会社で、トラック、ホーストラック(馬の運搬車)、キャンピングカーの製造から、内装のキッチン・ベッドの組み込み、そして事故車や特注車両の全塗装までを行う巨大な工場でした。

僕はその中の塗装部門で、ペイントを担当していました。


『救急車を“黄色”に塗り替えるビッグプロジェクト』


ある日、国から大きなプロジェクトが降りてきました。

ニュージーランドの救急車のカラーを白から黄色に変更するという計画で、新車の救急車を年間50台、1週間に1台のペースで塗っていくというもの。


各社に数台ずつ試験的に振り分けられ、仕上がりが一番良かった会社が年間契約を取れるシステム。

そこで前の会社から一緒に移ったマネージャー・マイクと僕が二人でそのプロジェクトを担当し、見事に受注を勝ち取りました。


普通車ばかり塗ってきた僕には、救急車のサイズ感や工程は大変でしたが、刺激があって毎日楽しかった。大きな仕事を仲間とやる達成感もあって、充実した毎日でした。




『そして、あの“火事”が起きた』


そんな忙しい日々のある日、突然の出来事が起きました。


僕が作業していると、マイクが血相を変えて走ってきて、


「Nari! FIRE! FIRE!!」


と叫ぶんです。

“Fire(ファイヤー)”には「クビ」という意味もあるので、僕は、


「え?クビになるようなことしてないよ!」


と思わず言い返したんですが、マイクはさらに必死に叫ぶ。


「違う!本当に火事だ!FIRE!!」


一緒に隣の部屋に飛び込んだ瞬間、塗装ブースがものすごい勢いで燃えていました。

炎と黒煙が渦巻き、金属の焦げる匂いが充満してくる。


幸い大事には至りませんでしたが、今思えば、あれは会社の“崩れ始めた最初のサイン”だったのかもしれません。



『長すぎるニュージーランドのクリスマス休暇』


火事の後も、救急車プロジェクトは続きました。

そんな中でクリスマスシーズンが到来

この国はクリスマスに3、4週間まるまる会社を閉めて休むところも多くあり、それに有休を足して2ヶ月休む人もいます。


その時期は夏真っ盛りで国全体がホリデームード。



『そして、運命の“月曜日の朝”』


クリスマスホリデーが明け、全社員が戻り始めた2月中旬の月曜日。

突然全員が会議室に呼ばれ、そこで見たことのないスーツ姿の二人と、しょんぼりした社長が立っていました。

難しい英語で何か話していましたが、当時の僕にはほとんど理解できず。

30分のミーティングが終わり、

「よし、今日も救急車塗るぞ〜!」

なんて気軽に言いながら塗装ブースに戻ろうとすると、同僚が僕を呼び止めました。


「Nari… この会社、今日の朝で倒産したよ。

1時間以内に荷物まとめて帰るってさ。」


頭が真っ白になり、体が震えました。

半年間、毎日全力で働いていた場所が、一瞬でなくなる。

あの火事も、今思えばその前兆だったのかもしれません。


今思い返せば忙しい塗装部門以外の部署は年末前から閑散としていて、休憩室にもいつものメンツも居ない日も多くあり、仕事不足で休暇を取っていたのかと思います。

 

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